LPC-DHA/EPA強化食はヒトAPOE4を発現するマウスの脳内DHAを増加させ、行動を変化させる
APOE3と比較して、APOE4は、加齢に伴う認知機能の低下や神経変性疾患のリスクが高いとされている。そのため、APOE遺伝子型によって調節されるプロセスを標的としたサプリメントの開発は、高齢化社会に大きな恩恵をもたらす可能性がある。APOE遺伝子型とドコサヘキサエン酸(DHA)との関連性を示唆する証拠があるが、現行のDHAサプリメントの臨床研究では、認知症に対して否定的な結果が出ている。現在のDHAサプリメントで有益な効果が得られないのは、脳への取り込みに最適なDHAの形態がリゾホスファチジルコリン(LPC)-DHAであることから、バイオアベイラビリティーの限界が関係していると考えられる。我々は以前、リパーゼ処理によってオキアミオイルのLPC-DHA含有量を濃縮する方法を開発した(LT-クリルオイル)。その結果、野生型マウスの脳内DHAレベルは、未処理のオキアミオイルと比較して5倍濃縮された。ここでは、APOE3およびAPOE4を標的とした置換マウス(APOE-TRマウス;生後4カ月から12カ月まで投与)において、対照食、オキアミオイルを含む食餌、LT-クリルオイルを含む食餌の効果を評価した。その結果、APOE4-TRマウスでは血漿および海馬中のDHA濃度が低く、APOE3-およびAPOE4-TRマウスではLT-クリルオイルが血漿および海馬中のDHA濃度を上昇させることがわかった。APOE4-TRマウスでは、LT-クリルオイルの投与により、シナプス小胞タンパク質SV2Aのレベルが上昇し、新規物体認識テストの成績が向上した。結論として、我々のデータは、LPC-DHA/EPAを濃縮したオキアミオイルが、APOE4を発現するマウスにおいて、脳内DHAを増加させ、記憶に関連する行動を改善することを示している。したがって、LT-クリルオイルのサプリメントを長期的に使用することで、加齢による神経変性をある程度防ぐことができるかもしれない。
※認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)や高齢者の認知機能低下に関与すると言われている重要な遺伝子の1つに、アポリポ蛋白Eを作り出すAPOE(アポイー)遺伝子があります。このAPOE遺伝子型を調べることにより、アルツハイマー病発症リスクを知り、予防につなげることができます。APOE遺伝子型には、APOE2(ε2)、APOE3(ε3)、APOE4(ε4)の3種類があり、APOE遺伝子型ε4を多く持つほど、APOE遺伝子型ε2、ε3だけを持つのと比べてアルツハイマー病等の発症リスクが高まると言われています。
「LPC-DHA/EPA-Enriched Diets Increase Brain DHA and Modulate Behavior in Mice That Express Human APOE4」
Front Neurosci. July 2021; 15
Sarah B. Scheinman 1、Dhavamani Sugasini 2、Monay Zayed 1、Poorna C. R. Yalagala 2、 Felecia M. Marottoli 1、Papasani V. Subbaiah 2,3、and Leon M. Tai 1
1.(イリノイ大学シカゴ校解剖学・細胞生物学科)
2.(イリノイ大学シカゴ校医学部内分泌代謝学科)
3.(ジェシー・ブラウンVA医療センター)